為替介入は何をもって実行され、何を残したのか――バイナリーオプションへの影響は?

UPDATE:2022/10/12

 2022年9月22日、為替介入が行われました。それまで、急速に進む円安に対して、『注視している』などの口先介入ばかり繰り返してきた中での実施に一時市場は混乱。日銀の金融政策決定直後ということもあって、プロ・アマ問わず多くのトレーダーにとって打撃となったことでしょう。

 しかし果たして、この一撃が長期的に見て効力があったのかというと、大いに疑問が残ります。それどころか、短期的にも意味を成さないのではないかとすら、感じています。

そもそも為替介入とは

 さて、為替介入とは結局何ぞやという話ですが、これは正式には『外国為替平衡操作』といい、為替相場の急変を抑制し、安定化を図るために実施されます。

 日本においては、実施の判断は財務大臣によって行われ、その指示を受けた日本銀行が、日本銀行法に基づき遂行しています。

 今回の介入に際して日銀に対して不満の声を上げる方も見受けられましたが、日銀はあくまで実行役でしかなく、為替介入は財務省の管轄なのです。

わが国では、為替介入は財務大臣の権限において実施することとされています。日本銀行は、特別会計に関する法律および日本銀行法に基づき、財務大臣の代理人として、その指示に基づいて為替介入の実務を遂行しています。

日本銀行 Bank of Japan

 為替介入は、指示を受けた日本銀行が直接実行することになりますが、場合によっては海外の通貨当局、すなわち日本における財務省や中央銀行に介入を委託する場合もあります。そのため、本来は日本では取引が行われない祝日でも、為替介入自体は可能となっています。

為替介入そのものは11年ぶり

 報道などでは『為替介入は24年ぶり』といわれていますが、財務省発表の『外国為替平衡操作の実施状況』によれば、最後に実施されたのは平成23年11月4日、3,062億円分でドルを購入したのが最後となっています。

 平成23年には繰り返しドル買いの為替介入が行われました。その総額は14兆2970億円という莫大な資金が投入されました。

 では、何故24年ぶりといわれているのかというと、これはドル売りでの為替介入が平成10年6月17日以来だからです。このときは2,312億円分を売りに動いています。

 この年は4月にも介入が行われており、総額では3兆470億円分のドルが売りに出されました。

 よって、『為替介入自体は11年ぶりで、ドル売り円買いによる為替介入は24年ぶり』というのが正確なところです。

 ただし、これはあくまで公表されているデータに基づいた話であって、非公表の、所謂『覆面介入』については考慮していません。

為替介入の兆候はあった

 先だって、『突然の為替介入により市場は混乱した』と記述しましたが、その兆候はありました。

 最も直接的なのは、9月14日に行われた『レートチェック』。中央銀行が各金融機関に対して現在の取引価格を確認する行為を指しますが、これは為替介入の準備段階とされており、警戒色が強まりました。

 しかし、それでも『ただチェックしただけで実際に介入に踏み切ることはないのでは』との見方も強く、一時的な円買いの動きはあってもその流れは限定的でした。

 もう1つは、為替介入実施当日の昼に報じられた、神田財務官の『為替介入はまだ行っていないが、ステルスでやる場合もあるし、必要なときは必ずやる』という旨の発言。加えて、今すぐにも対応可能かという記者団の問いには、『そうだ』とも答えています。

 しかしこのときも、日銀の金融政策がこれまでと変わらず緩和維持であったことから、円安に歯止めはかかりませんでした。それどころか、始値から1円弱値を落としています。

 更に、政策決定後の黒田日銀総裁の記者会見においても、それまでと変わらず緩和を維持すると改めて発表され、更に円安は進行。結果として始値からの下落は2円に差し迫り――146円/米ドルを目前に、突如としてレートの反発が始まりました。

9月22日における為替介入の意味

 今回の為替介入には、どのような意味があったのでしょうか。

 少なくとも、長期的に続いているドル高円安を全面的に是正するためには実施されていないというのは明らかです。もし財務省の思惑がそこにあるのだとしたら、ありとあらゆる分析に反する行為であり、またほぼ確実に失敗することが目に見えているからです。

円安の根本的原因は日米の金融政策の違い

 何故ここまで円安が進んでしまったのか。

 米国が金融引締の為に金利を上げているのに対し、日本は10年もの間、低金利による金融緩和を続けています。これが根本的な原因である以上、円安の大幅な是正はどちらかが金融政策を転換しない限り、起こり得ません。

 アメリカは、2008年のリーマンショックにおける教訓から、新型コロナウィルスによる経済危機から一刻も早く経済力を回復させるために、大規模な金融緩和策を打ち出しました。その後経済が回復しまずは量的緩和の規模の縮小、次いで生じたインフレの抑制のために利上げを敢行しています。

 一方の日本は、10年もの間金融緩和を続けているにもかかわらず、景気回復の実感はなく。平均給与に至っては、下落兆候が見られます。

 すなわち、経済力が十分に高まったアメリカの通貨と、未だ低迷し続ける日本の通貨、どちらが価値があるかという問題、そしてその金融政策の違いからくる金利差拡大によって生じる利回りの差が根本原因であって、場当たり的に資金を投入してどうこうできるものではないのです。

そもそも初めからそう言っている

 金融政策云々以前に、そもそも最初から、財務省は『急激な変動は好ましくない』と言っているだけで、『円安はよくない』と言っているわけではありません。

 無論、円安に起因する物価上昇は問題とすべきものですがそれはさておき、先述の金融政策の違いによる円安進行そのものは当たり前のこと。しかし、その流れに多くの投機筋が乗っかったことで、想定を上回る速度で円安が進み続けているのはよろしくない。その流れを、たとえ一時的にでも止めるために行われたのが、今回の為替介入であると考えられます。

意味があったのか自体怪しい

 しかし、投機筋の過度な円売り取引に対して、どの程度抑制機能が働いたかといえば、無意味とまではいかないまでも、望んだ効果が発揮されたかどうかは怪しいところです。

 為替介入が行われたタイミングにおいて、一時ドル円相場は140円/ドル台まで値を下げました。変動幅はわずか数分で5円ほどと、為替介入に投入された額が如何に大きかったかを示しています。しかしそのすぐ後には142円/ドルにまで円安が進み、2022年9月26日12時現在においては144円/ドルに突入しています。

 そして10月12日、とうとうドル円レートは146円を超えました。

 勿論為替介入が22日の1回だけだとは限りませんが、それでも介入が行われる度に、下がったタイミングでドル買いが行われるだけではないでしょうか。

 実際、過度な変動が問題ならば、ゆっくりとドル買いを進めればいいとでも言わんばかりに、介入後の値動きは単に緩やかになっただけでした。

 ドル売り円買いでの介入という点でも、効果は極めて限定的と言わざるを得ません。

 11年前の為替介入では、ドル買い円売りが行われました。この場合、円を発行するのは日本ですから、極論すれば無制限にドルを買い続けられます。足りなくなれば、円を刷ればいいのですから。しかしドル売りの場合、事前に外貨を準備しておく必要があり、上限はその準備高となります。

 2022年8月末時点での財務省の外貨準備状況によれば、保有する外貨の総額は1兆2921億ドル。介入前後のレートである144円/ドルから日本円に換算すると、約187兆円です。これだけみると途方もない金額と思われるでしょうが(実際、日本の外貨準備高は、中国に次ぐ世界第2位です)、後述しますが、今回の介入で使用された約3兆円で一時的に5円、最終的に2~3円程度の値動きだったことを加味すると、際限なく介入できる額ではありません。米国が介入に賛成で、かつ協調路線を取った場合は、米国からドルを借り入れできるため実質無制限介入も可能ですが、今回に関して米国は、「最近高まっている円の変動性抑制を目的とした行動であり、それを理解する」としつつ、同時に、「協調介入は行っていない」ともしています。

 また、欧州の主要国も日本の為替介入に対し、協調路線を取っていないとしています。つまり完全な日本の単独介入であり、その効果の程度は、悪い言い方をすればたかが知れています。

 唯一、スイスだけは為替介入の可能性について言及していますが、これはあくまで自国のインフレ率や物価上昇を懸念してのことであり、6月に利上げを行った上での行動ですので、日本の為替介入とは趣が異なります。

 ただし、米ドル円以外については、介入後から明らかな変化が見られます。介入前には全面的に円安傾向だったのが、介入後には円買いの傾向が強まっています。肝心の米ドル円に対する急変の是正は、現段階では失敗だったと言わざるを得ませんが、全面安という状況は回避できているのかも知れません。

今後の見通し

 最後に、今後予想されるドル円の動向と、当サイトの主題であるバイナリーオプションにおける影響や対策について触れておこうと思います。

今回のような大幅な資金投入は考えづらい?

 今回、為替介入で用いられた資金は、2022年9月30日にて公表された外国為替平衡操作の実施状況によれば、2兆8,382億円で、事前に上がっていた3兆円規模の介入であるという予測にほぼ近い結果でした。

 では、今後もこの規模で為替介入を実施するかというと、これは何ともいえません。

 今回の介入目的は投機筋に対する牽制であるため、まず初撃で大きく値を動かして『このくらいは簡単に動かせる』と示して取引の鈍化を狙った可能性が考えられます。結果としてはその下げが新たな円売りを呼び込んでしまい、数値的な効果は薄まったように思えますが、レートを約5円一気に動かしたという事実に違いはありません。心理的な効果については、一定以上は成果があったとみてもいいでしょう。

 加えて、毎回同程度の動きや同一のタイミング、価格帯で介入を行うと、その行動を読まれてしまい、為替介入の意味自体が喪失します。それに、安易に天井を設けてその都度資金を投入するという介入方法は、元来の目的とは異なる為替操作とみなされ、諸外国から批判される可能性すら出てきます。今回は円のボラティリティを抑制するという目的があったから、米国も理解を示したわけであって、その目的からずれた行動は当然容認されるものではないでしょう。それで最悪為替操作国にでも認定されてしまえば、日本にとって不利益でしかありません。

 為替操作国とは、為替相場を不当操作していると米国議会から認定された国のことです。これに認定された場合、必要に応じて米国からの制裁対象とされる場合があります。

 仮に同程度の金額を投じるとするならば、しばらくは静観して投機筋が「そろそろ大丈夫か」と判断して一気に円売りに走るタイミングを狙うでしょう。あるいは、少額での介入を適宜行って牽制し続けることも考えられます。

 何にしても、介入が再度行われるとしたら、一気に円安が進んだタイミングである可能性が高いという点は、考慮しておいたほうがいいと思われます。

トレンドは変わらずドル高円安

 先述のとおり、現在のドル高円安の根本的原因は金融政策の違いですから、当面はドル高円安のドル円相場上昇トレンドに大きな変化はないと思われます。

 為替介入直前の黒田日銀総裁の会見において、「当面は政策を転換するつもりはない」としており、今後、最低でも2~3年は日本の金融緩和は続くと見られています。

 とはいえこの点はやや不透明でもあります。というのも、黒田総裁の任期が 2023年4月8日までで、新たな総裁が椅子に座ることになれば、そこから先どうなるか分からないからです。

 では米国はどうか。米国は高まったインフレを抑制するために、経済の後退を覚悟で利上げに踏み切りました。しかしインフレ率は依然高止まりしている状況で、2022年だけで3回連続利上げを実施。残る11月12月のFOMCでの利上げも予測されています。

 このまま何らかの要因、例えばリーマンショックのような大規模な危機の到来かインフレ率の抑え込みに成功しない限り、米国の金融政策転換も見込めません。そして、実際に景気後退局面=リセッションが訪れたとして、高インフレが続いていれば米国は利上げを続けざるを得ないという見立てもあります。

 リセッション、それも世界規模のリセッションは2022年末から突入すると予想されており、その際は長く厄介なものになる恐れがあるとも考えられています。そうなった場合、主要国で唯一金融緩和政策を取る日本の一人勝ちとなる見方もあるようですが、果たして。

バイナリーオプション取引はやや警戒しつつ

 バイナリーオプションにおいては、上で触れてきたような長期的な分析はほとんど必要ありません。しかし、取引するタイミングはより慎重になったほうがよさそうです。

 その理由は当然、コールオプションを取った際に、決済前に為替介入が行われる可能性です。為替介入のタイミングは、事前に告知されることはありませんし、今後行われるかどうかも、やるときはやるとだけしかいわれていないため、これを事前に予測するのは不可能に近いと思われます。

 ただ、今回の介入の実施理由として『為替の投機的な取引による過剰な円安進行』があるため、この『過剰な進行』が生じていると判断できる際には、取引を控えましょう。

 為替介入が行われたのはドル円に対してですが、その他の通貨であってもドル円相場の変動は強く影響します。実際に、為替介入のタイミングで豪ドル円相場も2~3円程度下落しています。

 世界の基軸通貨である米ドルに対する行動ですので、どのような通貨ペアであっても大きく動く可能性が高いと認識しておきましょう。

 また、介入が行われたタイミングから考えて、大きくレートが動くと予想されるタイミングも、危険であると考えられます。

 22日の為替介入は、黒田総裁の会見で円安が急速に進み始めた最中に行われています。そして、黒田総裁の会見によって大きく円安に動いたのは、今回が初めてではありません。以前の動きからある程度こうなると予測して為替に介入する準備を整えていたのだとしたら、今後はそのタイミングでの取引は避けるように動くべきでしょう。

まとめ

  • 為替介入は11年ぶりで、ドル売り介入は24年ぶり
  • 目的は円安是正ではなく過剰な円安進行の一時的抑制
  • 効果の是非はともかく今後の介入にも要注意

 いずれにせよ、あのタイミングでの為替介入には『悪意』があったと個人的には思います。

 時刻は17時台、その直前には日銀の金融政策は継続して緩和と発表され、黒田日銀総裁もその旨と、より長期的な緩和が必要という発言から、明らかに円売りのムードが出ていました。それまでの流れも当然円安進行であったため、緩和継続を織り込んで先んじてドル買いを行っていたトレーダーもいたでしょう。

 何より、17時台は、会社勤めの兼業トレーダーにとっては本業の真っ最中だった方も少なくなく、結果として最も被害を被ったのはそういう、スイングトレードやデイトレードでFXに取り組む兼業トレーダーだったのではないでしょうか。

 しかも対象はドル円。ドル円相場は世界第2位、日本国内では第1位の取引量を誇ります。であれば財務省による為替介入は、本来守るべき日本のトレーダーに打撃を与えただけなのでは、と思えて仕方ありません。

POST:2022/09/26

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