アノマリーでバイナリーオプションは攻略でき……ません!

UPDATE:2022/08/19

 アノマリーという言葉があります。これは一般的には『異常』『例外』『特異』などを指す英単語ですが、金融業界では、『理論では説明できないものの、市場を動かす経験則や現象』のことを総称した言葉として用いられています。

 アノマリーの中には、説明されるとなるほどと納得できる理由付けがされているものもありますが、明らかに相場とは関係のない事象であるにも関わらず、統計的にはそのタイミングで相場が動いているものもあります。

 普通であれば、確実性の低く論理的根拠のない単なる経験則が、本来の市場に反映されるなど、考えられないことと思われるかも知れません。しかし、相場は全ての事象を織り込むとされているように、アノマリーも、決して完全には無視できない要素といえます。

 今回は、プロトレーダーでも注目しているものもあるというアノマリーについて、その具体例などを取り上げつつ、バイナリーオプションで利用できないか、探っていきたいと思います。

アノマリーの具体例

 早速、具体的にアノマリーにはどういったものがあるのかをまとめました。以下に挙げるアノマリーはドル円に対しまことしやかに囁かれているもので、中にはあまりにも馬鹿げていると思われるものも含まれますが、現実として、過去その状況下でチャートが動いた事実がある点を加味しつつ、御覧ください。

ゴトー日

 ゴトー日とは、

  • 5と10がつく日付(5日、10日、15日、20日、25日、30日)の仲値決定に関わる事象
  • 東証が開く9時から仲値が決まる9時55分まではドル円が円安方向に動く
  • 仲値が決まる前後で円高に動く

 この一連の動向を総称したアノマリーです。

 上記の日には、多くの輸出入関連企業における資金決済が行われます。輸出入関連企業の取引相手は海外ですから、円よりも世界の基軸通貨であるドルが必要です。そのため、ドルを得るため、企業は銀行から、円をドルに換えてもらわなければなりません。

 この、『企業と銀行の間で取引されるドル円レート』『仲値』であり、その決定は午前9時55分のレートを参考に、銀行が下します。

 この仲値が円安ドル高であればあるほど、銀行が得られる利益は大きくなります。仮に、銀行がドル円レート100円/ドルのときにドルを仕入れたときに、企業が100万ドルを必要とした場合、

交換に必要な円 銀行の利益
仲値120円/ドル 1億2,000万円 2,000万円
仲値110円/ドル 1億1,000万円 1,000万円
仲値100円/ドル 1億円 0円

 これは一般のFXトレーダーが行っている取引と同じ、『安く買って高く売る』行為を行っているに過ぎませんが、一般トレーダーが取り扱う金額とは規模が違うため、レートに決して少なくない影響を及ぼします。

 特に、ゴトー日が金曜の場合は、仲値決定前の上昇幅が大きくなりやすいとされています。

 ゴトー日が土日祝日に当たる場合、その前の平日がゴトー日と同様の扱いとなります。

 このゴトー日、特に金曜のゴトー日は、アノマリーの中でも比較的実際に起こりやすい事象として認識されています。

 そのため、市場が開き取引が始まる午前9時から、仲値が決まる9時55分にかけては、FXでは買いポジション、バイナリーオプションではハイでエントリーし、仲値が決定して企業がドルへの交換を始めたタイミングではロー(売り)へのエントリーを行うことで、利益を出しやすい傾向にあります。

 ……と、いうのが、概ねゴトー日について紹介されている内容ですが、実際のところは言われているほど明確な優位性があるというわけではありません。為替レートを動かすのは世界中から集められた思惑であって、1つの国のいくつかの企業による実需買いもその中の1つでしかないのです。唯一金曜ゴトー日のみについてはややその傾向が見られるものの、確実性については保証しかねるものです。

 ただ、数あるアノマリーの中で、バイナリーオプションで活用しうるとしたら『金曜ゴトー日』をおいて他にありませんので、注目してみてもいいのではないでしょうか。

ジブリの呪い

 金曜ロードショーでジブリ映画が放送されると、放送日翌日以降の最初の取引日に円高が起きる。

 日本国内、ひいては世界的にも有名となったアノマリーの1つです。

 金曜ロードショーといえば、日本テレビが毎週金曜日21時から放送している映画番組。そしてジブリ映画といえば、いわずと知れたスタジオジブリが制作した映画のこと。為替どころか、金融商品全体にすらかすりもしていませんが、一時期は注目する個人投資家が多いアノマリーでした。

 内容は上記の通り。ことの発端は、2006年に『天空の城ラピュタ』が放送された際に、『ジブリの呪い』という言葉が散見されだしたとされています。その後2013年に『ウォール・ストリート・ジャーナル』が報じたことをきっかけに、大きな話題となりました。

 さて、金曜日で為替市場に影響を及ぼすものといえば、何があるでしょう――そう、毎月第1金曜日に発表される『米国雇用統計』です。

米国雇用統計とは?バイナリーオプションでも重視すべき指標か?

米国雇用統計とは?バイナリーオプションでも重視すべき指標か?

 この雇用統計発表とジブリ映画の放送が重なった場合、相場が一層荒れるとされています。

 ……実際のところ、どうなのでしょうか。2015年から2021年にかけての『金曜ロードショーでジブリ映画が放送された日』と『米国雇用統計発表』をざっくりと見てみた結果、特段そのような傾向は見られず、むしろやや円安気味な印象を受けました。

 変動幅が大きいというわけでもなく、平穏そのもの。どうやらこのジブリの呪いは、所詮はただの都市伝説だったようです。

 それもそのはずで、ジブリの呪いは、2010年からの3年間に限定して観測された事象です。この期間中、第一金曜日にジブリ映画が放送されたのは10回を数え、内9回に渡り、円高ドル安の動きが見られたとのこと。確かにそれだけ続けば、何かしらオカルト的な何かを見出しても仕方がないことでしょう。

 現実には、バルスでどこかしらのサーバーが落ちることはあっても、それが原因でドル円が暴落することはありません。それよりも純粋に、雇用統計の結果如何での乱高下のほうがよっぽど気にするべき事象です。

 2022年5月6日が、金曜ロードショーで『崖の上のポニョ』が放送され、同時に雇用統計の発表日でもありました。

 蓋を開けてみれば、雇用統計の数値は概ね事前予測どおりで、21時から23時の間で50銭程度の振れ幅はあったものの、それまでの流れに影響をおよぼすことなく、その後は上昇トレンドを引き継いでいます。

GWの円高パニック

 GW中は急激な円高が進むというアノマリーがあります。通称『円高パニック』とも呼ばれるこの自称は、2008年から2011年の4年連続で生じました。

 この期間中、ドル円が最大で5円程度急落しています。この主因としては、『円売りのポジション逆流』と考えられており、それまでのポジションがドル買い円売りに傾斜した反動であるとされています。

 そして2022年4月時点で、この『ドル買い円売りへの傾斜傾向』が強く見られています。加えて、GW中の5月4日には、米連邦公開市場委員会、GW開けの6日には雇用統計発表が控えています。GW中にバイナリーオプションに取り組む際には、この点について少し注意しておいたほうがいいかも知れません。

 GW突入前日の4月28日、日銀の金融政策決定会合において、従来どおりの路線、すなわち継続的な金融緩和が発表されました。それ自体はすでに相場に織り込まれていると思われましたが、発表直後に急激に円安が進み、一時1ドル131円台に突入しています。

 その後はじわじわと値を戻し始めましたが、130円台はなかなか割り込まず、レンジ相場を形成。そのままGW中はその傾向が続くかと考えられた矢先、FOMC(連邦公開市場委員会)において利上げの継続が決定し、一時的にレンジを上抜け。しかしその直後には、その利上げの数値が予測よりも低かったことから急落、一時、128円台後半にまで円高が進行しました。

 では全体的に円高進行だったのかというと、最終的には130円前後にまでレートが戻ってきていることから、2022年のGWにおいては、GWの円高アノマリーは当てはまらなかったといっていいでしょう。

その他月毎のアノマリー

 ジブリの呪いはあまりにもオカルトに寄りすぎているアノマリーですが、そうでないものも存在します。これからご紹介するものは、絶対にこう動くというものというわけではありませんが、十分に注意して然るべきアノマリーも含まれますので、取引の際には多少なりとも気にかけるようにしましょう。

1月

 1月の相場は、その1年全体の方向性を決めるといわれています。また、第1週目の方向性が1月全体の方向性を決定づけるともされており、統括すれば、第1週目の値動きが1年の動きを指し示すと考えることもできます。

2月

 2月は月初めから月末にかけて下落しやすい月とされています。これについてはある程度納得の行く理由があり、米国債の利払いなどによって受け取ったドルを円に替える動きなどが要因となると考えられています。

 節分天井彼岸底という言葉もありますが、これは、『節分(2月3日)に高値を、彼岸(18~24日)に安値をつけるといいう格言。米国債の利払い日が15日であることを考えると、注視しておいてもいいアノマリーといえるのではないでしょうか。

3月、4月

 3月は円高ドル安が進みやすい月です。これは、日本国内の企業が年度末決算のために円の回収に動くため。逆に4月は、新規の外貨投資が増加し、円安ドル高に進みやすいとされています。

 もっとも、これはあくまで平時における傾向であり、2022年のような、『新型コロナウィルスまん延』『ロシアのウクライナ侵攻』といったある種の異常事態においては、適用されません。

 日米の経済政策の違いもあって、2022年は3月、4月ともに円安ドル高となりました。

5月、6月

 5月には『Sell in May』という格言が有名です。これは、全文を『Sell in May and go away; don’t come back until St Leger day』といい、『5月に全て売り、9月第2土曜日の競馬レース(セントレジャーステークス)まで帰ってくるな』ということです。

 とはいえ、これは主に株での話。加えて、この格言は日本の市場にはさほど当てはまらないようです。

 ただし、例年として市場のムードは売り方向で、ドル円も下落基調になりやすいと見られます。そのまま相場の転換点となりやすいのも、5月のアノマリーとして知られています。先述の『GWの円高パニック』も5月に生じる点からも、全般として5月は円高基調と考えていいのかも知れません。

 続く6月も相場の転換点と考えられており、その年の高値、安値をつける可能性が高いともいわれます。

7月、8月

 この時期は夏枯れ相場といわれており、夏季休暇で市場参加者が減少し、値動きが鈍くなると見られています。日本では夏休みといえば学生以外にはほとんど関係のない話ではありますが、アメリカでは割りとしっかり夏休みを取るケースが多いようです。

 一般的には、7月には円安方向に進み、日本でお盆休みがある8月には、円高方向に動くとされています。

 ただし、7月のアノマリーに関しては、リーマンショック以降は影響力が低下しているようです。

9月、10月

 9月の相場は大きなトレンドを形成しやすく、そのまま10月、場合によっては11月までそのトレンドが継続する傾向が見られます。

 ドル円に関しては、企業の中間決済があるため、円高傾向に動くと考えられています。また、アメリカにあるアノマリー『10月効果』によれば、10月は株価が底をつけやすく、その影響でドル安が進む傾向もあると判断されています。

 過去、株の大暴落が起こった『世界大恐慌』『第1次オイルショック』『ブラックマンデー』『リーマンショック』は、全てこの10月に起きています。これにより株価の下落に対する警戒色が強まるのが、10月効果です。

11月

 11月には9月からの長期的なトレンドが終焉を迎え、月末にかけて反転する可能性が考慮されます。

 先だっての『Sell in May』では、9月に戻ってこいという格言の落ちがありましたが、先述の通りアメリカのアノマリーには『10月効果』があるため、11月に本腰を入れるトレーダーが多いようです。

12月

 年末となる12月は荒れやすい相場を作る傾向があります。

 アメリカでは、年末のクリスマス休暇に向けて市場が徐々に閑散としてくるため、ドル円のトレンドは生じにくくなります。また、参加者が少なくなれば、少しの材料で値動きが発生しやすくなることもあり、これが12月が荒れる根拠となっています。

過去観測されたその他のアノマリー

 上述の『ジブリの呪い』も、現在では観測されない、無効化されたアノマリーですが、それ以外にもいくつか、『過去度々観測されたものの、現在では再現性に乏しいアノマリー』というものがあります。

 これらは上記で取り上げたものに比べて認知度は低く、そもそもアノマリーと呼ばれていないものもありますが、いくつか気になったものをピックアップしました。

オセアニア時間の円安進行

 オセアニア時間とは、日本時間の6時から8時の時間帯のことで、ここではニュージーランドやオーストラリアの市場が動いている時間帯です。

 通常であれば、ニュージーランドの経済指標発表などの影響がない限り、ほとんど値動きのないタイミングであるとされていますが、2022年前期において、オセアニア時間において、比較的急速に円安ドル高が進む現象が見られました。

 これは、2022年前期はそもそも円安が加速していたことが強く関与していると考えられますが、殊7時から8時の間では、ほとんど一方通行的に円安が進んでいたことも少なくありませんでした。

 とはいえ、アメリカの金融引き締めに伴う景気後退感が強まり始めるとその傾向はやや少なくなっています。

 そもそもオセアニア時間は、NY市場が閉まった後で、かつ東証前のため市場参加者が少なく、スプレッドの拡大が起きやすいタイミングでもあります。バイナリーオプションではFXのスプレッドは関係ないとはいえ、分析もやや行いづらい時間帯です。出勤前などに取引して利益を得ておきたいという場合以外には、あまり注目する必要もないと思われます。

欧州時間の全戻し

 元々欧州時間、というかロンドン時間は、東京時間と真逆の値動きをすることもある時間帯です。が、2022年前期後半においてはよりこの傾向が強く出ていた印象があります。

 仮に東京時間で円高方向に進んでいたとしても、ロンドン時間に入って相場が元の位置に戻っているということも珍しくありませんでした。場合によってはそのまま始値を超え、日足で見ると陽線になっていたなんてこともしょっちゅう。Yahoo!ファイナンスのドル円掲示板では、『日本円が欧州のおもちゃにされている』なんて発言も、チラホラと見られました。

 この現象は『過去観測された』というよりも、『過去から現在に至るまで不定期に見られる動き』ともいえるため、16時台や17時台の値動きを警戒するトレーダーも少なくありません。

アノマリーとバイナリーオプション

 さて本題といたしまして、アノマリーはバイナリーオプションで活用できる代物なのでしょうか?

 これについて先に結論付けてしまいますと、利用できるものもあるが、多くが活用のしようがないものであると言わざるを得ません。

超短期においてアノマリーの確実性は非常に低い

 上記の一覧をご覧いただければお分かりいただけるかと思いますが、アノマリーは月単位の長期的な取引に関わるものが多く、最短で30秒、長くても24時間未満で決済を迎えるバイナリーオプションでは、どうしても活用できません。

現実として、2022年5月は『Sell in May』に従い若干の円高方向に動きましたが、その中身を事細かく見ていけば、一時的には4月の最高値を更新しており、5月31日にはすでに円安方向へ強く動き始めていました。

 GWの円高パニックにしても、2022年時点においては確実性が高いとは言い難く、加えて、やはりこちらも、超短期取引であるバイナリーオプションでは到底利用できるとはいえません。

 ジブリの呪いに至っては最早単なるオカルトであり、その再現性はすでに失われています。タイミング的には短期的な値動きに寄与しますのでその点だけはバイナリーオプションと相性がいいですが、それならば先述のとおり、雇用統計の結果を考慮したほうが現実的でしょう。

場合によっては活用する手段はある

 これらの中で、唯一活用しうるものがあるとすれば、やはり『ゴトー日』です。

 金曜ゴトー日に関してのみは、傾向的に上記の通り『9時~9時55分→円安/以降→円高』と動くことが多く、この流れに乗った取引を検討してもいいでしょう。

 ただし、これにはあるリスクがあります。それは、集団取引と判断されて、バイナリーオプション業者から口座凍結を受ける可能性がある点です。

 多くのバイナリーオプション業者が、集団取引を禁止行為と明言しています。そのため、多くのトレーダーが取引を行うと想定されうる金曜ゴトー日は、利益を得やすいと思われる一方で、以降の取引ができなくなる恐れも秘めているのです。

 また、ゴトー日だからといって必ずしもアノマリーどおりに動くわけではありません。あくまで『経験上、あるいは市場の思惑的にそう動く可能性がある』というだけで、実際には何も起こらない、想定とは逆に値動きすることもザラにあります。

 今日はゴトー日だからこうエントリーしよう! と何も考えずにポジションを建てると痛い目を見ますので、気をつけましょう。

まとめ

  • アノマリーとは、根拠はないが値動きに影響を及ぼす事象の総称
  • ジブリの呪いなどのオカルト的なものから、ある程度もっともらしい根拠があるものまで様々
  • バイナリーオプションではほとんどが活用できない

 アノマリーの大半は、バイナリーオプションでは利用できない、あるいは利用しづらいものでした。ただ、こういうものがあるという知識を得ておくのは大切です。多少なりとも知識を入れておくことで、予想に反した動きを見せたときや、不審なツールに出くわしたときの対策をする余地が生まれるからです。

 バイナリーオプションではアノマリーはほとんど使い道がない最も有効なのは結局テクニカル分析であることをしっかりと念頭に置いておきましょう。『アノマリーで無裁量トレード』だとか、『投資の知識がなくても経験則で利益が出る』だとか、『アノマリー手法で相場の盲点をつく』だとか『究極ロジック・アノマリートレード』だとか、そんな甘言に騙されませんよう……

 第一、アノマリーはあくまで『それまでそういう風に動いていた』というだけの話に過ぎません。事実、2022年3月は、3月は円高が進むというアノマリーに反して円安が進行し、一時125円台に突入しています。

 そのような不確実なものに重きを置きすぎると、出せる利益も出せなくなります。自分の裁量で根拠のあるエントリーと、着実な利益の積み重ねを繰り返しましょう。

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